生徒会会計補欠選挙

1年前 4月20日 14:20 
横山 秋子  長野 英一  高橋 功  清水 圭一郎

今日は生徒会会計の補欠選挙の日である。
立候補者は横山 秋子だけだった。
教師達の間では他に立候補者がいないのかと焦っていた。
しかし、当日を迎えた今日になるまで他の立候補者は現れなかった。
普通補欠選挙というのは、転校や不慮の事故などで亡くなった場合以外は行われない。
今回は異例だった。
3月に行われた選挙で選ばれたばかりの会計の生徒が、生徒会役員不信任の全校生徒投票で3分の2以上の票が集まり解任されたのである。
理由は前期の繰越金を私事で使い込んだのが公になったからである。そう言う事もありいつもの補欠選挙ではない立会演説会が行われた。秋子は1年生だったが、そんな事を感じさせない立派な演説だった。
「この度、生徒会会計に立候補した、横山 秋子です。私の父は事務員をやっており私も事務の事や会計の事を父から学んでいます。以前不信任で解任された方に代わって、信頼があり確実な会計を目指して頑張りたいと思います。まだ、入学したてですが宜しくお願い致します。」
簡潔ではっきりとした口調だった。
帰って行く生徒達を見送りながら先程の堂々とした秋子はいなく舞台の袖でドキドキする胸を押さえていた。
生徒達が教室に戻ると早速信任か不信任かの投票が開始された。
方式は各クラスに用意された投票箱に1人1人が記入して投票する。それを選挙管理委員が会議室で開票する。
通常の生徒会選挙では投票も開票も2日間に分けられる。初日は会長と副会長で2日目は会計と書記と分けられている。
開票作業は公平を期す為に教師数人と教頭、そして校長も立会いの元で行われる。今回は会計だけとは言え従来の選挙方法に変化は無い。
ただ、今回は学校始まって以来の不祥事の後の選挙とあって、皆いつもよりも緊張していた。
そして、そんな緊張感の張り詰めている会議室に投票箱が続々と選挙管理委員によって運び込まれていった。
そんな中・・・
「今回の選挙横山が信任されなかったら、次の候補者はどうしたものだろうか?」
「それも勿論心配だが、信任されたとしても今回のこの不祥事の後で入ったばかりの1年生で大丈夫だろうか?」
こんな会話のやり取りが小さな声で行われていた。
実際黙ってはいるが教頭の高橋 功にもその心配はあった。
しかし、校長である清水 圭一郎にはその心配は無く、むしろ信任は時間の問題だろうと見ていた。
圭一郎は小さい頃から人を見る目があり、今回も秋子の演説を聞き、彼女自身を見てこの子なら大丈夫だと思っていた。
そして、まだ結果も分かっていないのに、信任されて選挙管理委員長に連れられてくる秋子の姿を想像して楽しみにしていた。


3時間後・・・
選挙管理委員達の投票分も終り開票作業は全て終了した。
信任1524票
不信任270票
欠席無効票6票
計1800票
これで生徒全員の票が確認された。
参加生徒数と信任が3分の2以上で秋子は正式に信任され晴れて生徒会会計として認められた瞬間だった。
そんな事とはつゆ知らず秋子は自分のクラスにはまだ戻っておらず、体育館の舞台の上で少しボーっとしていた。
「横山さんいますか?」
体育館の中に1人の男の声が響いた。
「は、はいっ!」
驚きと緊張で秋子の声は裏返っていた。
「おめでとうございます!見事信任されまして、貴方は晴れて生徒会会計に任命されました。」
「!!!」
秋子は驚きで声が出なかった。
「驚かれていると思いますが、明日私がクラスへ迎えに行きますので一緒に校長室へ行って下さい。そこで正式に任命された事を校長にお伝えします。それでは今夜はゆっくりと休んで下さい。」
その声の主を見ようとした秋子だったが既に声の主は体育館からいなくなっていた。


次の日・・・
「横山さん。迎えに来ましたよ。」
秋子は事実を知っていたが他のクラスメイトは事実を知らなかったので、外に来た先輩を見てクラスメイトは秋子を見ていた。
クラスメイトの視線を後ろに感じながら秋子は廊下へ出た。
「あの・・・。」
相手が先輩なのはわかるが誰だか分からない秋子は言い淀んだ。
「ごめんね。私は選挙管理委員長の長野 英一。さあ、一緒に校長室に行こう。」
そう言って英一は秋子を促した。秋子は黙って頷いて英一の後に着いていった。
コンコン
校長室のドアがノックされた。
「どうぞ。」
中から声がして先に英一が入る。
「失礼致します。」
それに続いて秋子も入る。
「失礼します。」
英一は慣れた口調だったが、流石に初めて入る校長室に緊張していた。そんな秋子を優しい顔で圭一郎は迎えた。
「昨日の生徒会会計補欠選挙で、こちらの横山 秋子さんが会計に信任されました。以上ご報告致します。」
英一の言葉に満足そうに頷く圭一郎。
「横山 秋子君。如月高校生徒会の会計として精一杯頑張ってくれ。」
圭一郎の言葉にいろいろな思いが去来した秋子だったが、
「はいっ!」
大きくはっきりと、笑顔で答えた。