プリー死す!

4年半後・・・
プロジェクトは最終段階を迎えていた。
拠点でのシステムは既に独立しており、先に宇宙船と環境システムは完成していた。残るはロボットの完成が待たれるだけとなっていた。
「プリー博士、見て下さい。ついに伝説の金属ラコニアの加工に成功しました。純粋なラコニアで全ての外装を作る事は不可能です。その代わりにこのラコニアをほんの少し加えて、他の金属と混ぜることによって、凄まじい強度の金属を生み出せたんです。これでロボット全体を覆えば、その辺のモンスターの攻撃やロボットの攻撃では傷すらつきません。」
「ラコニア!?そんな貴重なものがあったの!?」
流石のプリーもメンバーの一言に驚きの声を上げた。
「一世一代の大仕事ですからね。出来るだけの事をやりたかったんです。私もまさか手に入るとは思っていませんでした。」
「ふふっ。そうね。きっとこのプロジェクトを世界も歓迎しているんだわ。そう取りましょう。後はこの金属を外装に必要なだけ用意して頂戴。後半年かからずに完成出来そうね。」
プリーは嬉しそうに言った。そして、後は外装と装備を着ければハード面が終る事にホッとしていた。

ソフト製作チームの方も最終段階に入っていた。下の方からの情報の積み上げで最上級にあたる本体のソフトの調整に入っていた。段階的にサポート出来る、上級プログラム・中級プログラム・下級プログラムを統括しそれぞれがいろいろな役目を果たせるピラミッド型の構造になっていた。ただ、ピラミッド方ではあるが、途中を飛ばして上下のプログラム同士でやり取りも出来るようになっていた。ただ、最高権限は最上級ソフトに委ねられる形になっていた。
「マザーブレインに支配されない為にも個性を強くした言語プログラムを一つ乗せよう。」
「何か意味があるんですか?」
ミールの言葉に周りのメンバーは不思議そうに聞いた。
「言語パターンを複雑にする事によって、他のプログラムにも自動的にその複雑さが絡み合って更に強固なプロテクトになる。言葉によっては、答えだとしてもそれが答えだと分からなくなるという寸法さ。元々あるデゾリアンの訛りなどではなく、独特の言語体系を考えて使ってみよう。最後のおまけだからこれでこっちは終わりだ。ハードよりも先に終らせるように頑張ろう。」
メンバーは納得した後に、全員で歓声を上げた。

「最終装備・・・載せるんですか?」
ハード製作チームの武装の最終決定を聞くべくメンバーは緊張した面持ちでいた。
「無論よ。出来るだけの事をやるだけよ。ディメンションバスターは標準装備として組み込みます。それが終了したら私の仕事は終り。後は外装を着けてれば完成。皆後少しよ、頑張りましょう。」
プリーの言葉に少しどよめいたが、チームのメンバーは決意も新たに頷いていた。そして、再び作業が始まった。
「プリー博士。一つお聞きしても良いですか?」
ディメンションバスターをロボットに組み込んでいる最中にメンバーの一人が話し掛けてきた。
「ごめんなさい、今は勘弁して。組み込みが終わったら改めて聞くわね。」
プリーはそちらを向かず、それだけ言って組み込みに集中した。相手は返事したようだったが、聞こえないくらい集中していた。
それから、接合部分のチェックや、耐性チェックなどであっという間に時間が流れた。

三週間後・・・

そして、ついに外装を除く部分が完成した。
「やったわ。」
プリーは目の下のくまも気にせずに万感の思いを込めて言った。
「おめでとうございます。プリー博士。お疲れ様でした。」
「ありがとう。私の仕事は終ったけれど、本当の完成にはもう少しかかるものね。それまではゆっくり休ませて貰うわね。」
プリーは皆の言葉に少し涙ぐみながら、その場を後にした。そのまま、仮眠室でベッドに倒れ込んで、気を失うように眠ってしまった。

「ふわーあ。んー。」
どの位眠ったのか分からないが、欠伸をしながら伸びをして起きた。
「これで、私の出来る事は終った・・・。長かったわ・・・。これで、あの子が起動して私たちの思いを・・・この世界を救って欲しい。これだけ多くの人の思いと時間と愛情を込めて作ったあの子ならきっとやり遂げてくれる。」
プリーは暗い仮眠室の中で呟いていた。
「あ、そう言えば・・・。あの子って・・・。名前まだ決まってなかったわね。完成したら付けてあげないとね。」
少し笑いながら再び呟いた。
「さてと、どうなったか見に行かないとね。」
プリーは明かりをつけてから、着替えてメンバーの待つ場所へと歩いて行った。

「プリー博士。おはようございます。今外装の金属の精製の最終段階に入っています。後一ヶ月もすればこいつに相応しいピッタリの外装が出来上がりますよ。」
「安心したわ。これで、確実に計画よりも早く終りそうね。ただ、気を抜かないでしっかりね。」
「はい、最後の最後でドジったら元も子もないですからね。」
プリーとメンバーの一人そう言いながら笑い合った。
「プリー博士。以前の教えて頂きたかった質問をお聞きしたいんですが宜しいですか?」
「いいわよ。邪魔にならないようにあちらで話しましょう。じゃあ、頑張ってね。」
プリーは去り際に背中をポンと叩いてから、別のメンバーと移動した。

「ディメンションバスターの威力の理論値なんですが、あの数値の見積もりはどの部分を指しているのかを教えて頂けませんか?それによっては本体がその負荷に耐えられないかもしれません。私はそれを心配しているんです。」
メンバーの一人は本当に心配そうに聞いた。
「その話ね。ラコニアの合金化に成功したと言うのは勿論知っているわよね?私はまさかラコニア自体が手に入る事を予想していなかったし、ましてそれを合金化できる何ていうのも完全に予想外だったわ。ただ、そのお陰でディメンションバスターのフルパワーを出しても、本体に支障があるのは大量のエネルギー消費によるチャージ時間の発生だけと見ているわ。そして、貴方が聞きたかった答え。あの数値はディメンションバスターの1%の出力の理論値よ。」
少しニヤリとしながらプリーは答えた。
「あの数値で1%!?」
相手は驚いて暫くその場で固まっていた。
「そう、1%よ。理論的にはあの100倍は出せるという事ね。相乗効果や、周りの要因によってはそれ以上ね。しかも、あれは最低限の1%の値。後は実際に使用してみないと結果は分からないわ。」
「そ、そんな恐ろしいものだったんですか・・・。」
相手は顔面蒼白になっていた。
「ふふっ。最初の出力の為のエネルギー消費やプロテクトがかかっているから、あの子以外には起動する事も撃つ事も出来ない。あの子自身も、あの武器も最終兵器と言って過言じゃないわ。あのくらいしなければマザーブレインは倒せないと思っているから。」
自身たっぷりに言うプリーを見て、相手は溜息をついた。
「流石はプリー博士。参りました。多分そこまでお話して頂いたという事は、わかっているんですよね・・・。」
苦笑いしながら相手は言った。
「まあね。もういい加減に軍が中を買収し始めている事くらい分かっているわ。でもね、あえて私はそれを問いただすつもりは無いわ。だって、ここまで協力してくれた仲間じゃない。人の心は移ろい易いもの。ただ、私は移ろう理由があるけど、そこに触れられなかっただけだと思う。あの子はね、今更軍に渡しても無駄なのよ。軍の全てを破壊した後に、マザーブレインに向かっていくわ。未だ目覚めてはいないけれど、自分が何をするのか既にあの子は知っているからね。マザーブレインを破壊するまでに目の前に出てくる邪魔者は何であろうと破壊して進んで行くわ。あの子はもう何ものにも止められないのよ。」
「ふう・・・。そこまで聞いてしまって良かったんでしょうか?」
溜息をつきながら相手は言った。
「それを判断するのは貴方自身よ。じゃあ、私は行くわね。皆の為に美味しい食事くらい作らないとね。怒鳴っているだけが脳じゃない事見せてあげるわ。」
プリーは笑いながら、立ち上がって相手の肩をポンポン叩いた後、それぞれのリーダーの所へ向かって歩いて行った。
そして、自分を除く三人のリーダーへ一枚のデータチップを渡した。
「私が出来る仕事は全て終りました。もし、私に何かあった時にそのチップを見て下さい。そんな事態は起きない方が良いんですけれどね。まあ、保険みたいなものなんで受け取って下さい。」
三人は頷いて受け取った。その後、プリーは拠点の外へ向かった。

「はー。外に出るのは何年ぶりかしら。ウィル。街まで買出しに行きたいんだけど、付き合ってくれるかしら?」
伸びをした後プリーはウィルに話し掛けた。
「うん?ああ、何を買いに行くんだ?」
外を警戒していたウィルは振り向いた。
「食料よ。美味しいもの作ってあげるから期待しといて。」
プリーが言うとウィルも少しだけ笑った。そして、エアカーで拠点を後にした。
「もう仕事は終ったのかい?プリー博士?」
「ええ、そちらはこれからかしらね?ウィル中尉殿。」
プリーに言われてウィルは少し強張った表情になる。
「やはり、知っていたのか・・・。何故ばらさなかった?」
「そんな事をしても時間と労力の無駄だからね。貴方には悪いけど、私にはこの世界を救う方が軍がどうこうなんて事より大事だから。私がもし軍のお抱えの科学者だったら違ったのかもしれないけれどね。偉そうな事を言うけどね、私はこの世界の為に自分の科学力を使うの。それが私の使命だと思うから。貴方は?貴方は何の為に軍人をやっているの?」
「恩人に恩を返す為だ・・・。」
ウィルはポツリと呟く。
「例えその恩人が悪い事をしていたとしても、それに荷担するって事かしら?本当にその人のことを思うのなら、それを止めるっていう道もあるんじゃないのかしら?」
「そんな綺麗事だけじゃやっていけないのさ。それに今更この状況や性格を変えるつもりも無い。」
そう言うとウィルはエアカーを止めて、銃をプリーに突きつけた。
「ディメンションバスターのプロテクトの解除方法を言え。そうすれば、命だけは助けてやる。」
「ふふっ。馬鹿ね。貴方程の人が脅しの効く相手かどうかくらい分からないの?言った所でもう手遅れよ。既にソフトの方でぐちゃぐちゃになっているわ。今の私はもうプロジェクトには用済みなのよ。元々この命このプロジェクトに捧げるつもりだったもの。さあ、撃ちなさい。」
ウィルはプリーが怯えると思っていた。しかし、逆に涼しい顔をして平然と言う様に溜息をついた。
「覚悟は出来ていたという事か・・・。まあいい、どちらにしても殺してやる。お前が死んだとなれば、メンバーの士気も下がるだろうしな。」
そう言ってウィルは残忍な笑みを浮かべた。
「本当に軍人って言うのは馬鹿ね。」
「何だと!貴様!!」
バシュ!!!
怒鳴った後ウィルはプリーの右腿に銃を打ち込んだ。
「う、うぐ・・・。私が死んだ所で、プロジェクトはもう完成したも同然よ。いくら買収し様が何しようが。私の思いを受けてくれた人達にはそんな揺さぶりは無駄よ。」
プリーは傷口を抑えながら、ウィルを睨みつけるように言った。
「所詮、人は人だ。最後には誘惑には勝てんさ。」
「あっはっは。その誘惑を目の前にあるプロジェクトが最高のものだって思っている人達を集めたのよ。そうじゃなかったらとっくにプロジェクトは崩壊しているわ。貴方達の考えが甘いのよ。全ての人間が、金や権力や性だけになんかに動かされないのよ。人の思いはそんな軽いものじゃないのよ。私たち揃ったメンバーが全て殺されたとしても、あの子がマザーブレインを破壊して新たな時代を作ってくれればそれでいい。些細な犠牲で多くの人達が救われるのなら喜んでこの命差し出すわ。貴方だって生粋の軍人ならこのくらい言わなくたって分かるでしょうに。」
プリーは痛みを堪えて笑いながら言った。
「全ての人間がそう思っているとは思えんがな。しかし・・・お前の話は聞く度に私を不愉快にする。」
バシュ!!!
そう言って今度は肩口を撃った。
「ぐっ・・・。貴方には出来ないから悔しいんでしょう・・・。貴方に人は殺せても、救う事なんて出来ないんでしょうからね。人の命の尊さを忘れてしまったのね・・・可哀想に・・・。」
苦しいながらもプリーは哀れみの表情でウィルを見た。
「そんな目で私を見るな!!!」
バシュ!バシュ!バシュ!!!
プリーは頭と胸と腹に弾を貰ったが、微動だにせずにいた。
「私の肉体は死んでも、私の意志は生き続けるわ。ウィル中尉・・・。貴方も見届けると良いわ。世界が変わる所をね。・・・ふふっ。まさかここで死ぬとは思わなかったけど、でも良いわ・・・。私が出来る事は全てやったわ・・・。あなた・・・約束守れなくてご免なさいね・・・。二人をお願いね・・・。私・・・とっても・・・幸せ・・・・だっ・・・・た。」
そう言うとプリーは崩れるように倒れた。まだ、29歳という若さだった。
「ふんっ。綺麗事だけでは生きてはいけないんだよ。」
冷たい表情でプリーの死体を見下ろしながら吐き捨てるように言うウィル。
「さてと・・・。バイオモンスターが襲ってきての不慮の事故として片付けるか。独身だと聞いていたが相手がいたのか・・・。まあ、いい。」
ウィルはプリーの死体を乗せたままエアカーを岩に突っ込ませて爆破させた。
「果たして、プリーの言う通り士気は下がらないか楽しみだ。」
少しニヤニヤしながら呟いた後、ウィルは拠点に向かって歩き出した。