彼女の最終決戦(前編)



あの戦いでフェリアーテは重症を負い、メディカルセンターの病室で横になっていた。
消灯になって暗い部屋の中、痛みもあってか眠れないで居た。
(チャオ・・・プレア・・・。)
二人を思い浮かべるとフェリアーテの目からは自然と涙が溢れ天井を見ている視界が歪んだ。
(メビウスはともかく、あたいが生き残っちまうなんて・・・。あの時、あたいは命を捨てる覚悟だった・・・。)
悔やんでも悔やみきれない想いはいつしか、枕を濡らすほどの涙を生んでいた。
そして、そのうちに泣きつかれたのか薬のせいなのか分からないが眠りに付いていた。

「おはようございます。フェリアーテさん。」
「おはよう。」
次の日の朝、ルーに声を掛けられたフェリアーテはそのままの体勢で挨拶を返した。
「どうですか具合は?」
「そうだね、昨日より良い部分と、そうでない部分とあるね。あのさ・・・ルー。」
「駄目です。」
フェリアーテが頼もうとすると、内容も聞かずにルーはぴしゃりと言う。
「明後日の葬儀にだけはどんな形でも良い、ほんの少しだけでも良い、出させてくれ。頼むよ。」
「駄目です。昨日だってここまで肩を貸していたとはいえ歩いてこれるような状態じゃなかったんです。検査結果だって酷いものです。一週間は絶対安静。一ヶ月は入院確定なんですから。」
フェリアーテが懇願すると、困ったようにルーは言う。
「そこを何とか、頼むよ。浮遊担架で良いから。せめて、せめて最後くらい見送らせておくれよ。じゃないとあたい・・・。」
「・・・。」
泣きながら頼むフェリアーテに、ルーは更に困った顔になって何も言えずに黙り込んでしまう。
「駄目だって言うなら・・・あたい・・・這ってでも・・・。」
「あっ!駄目です動いちゃ!」
フェリアーテがベッドから降りようとするのに気が付いて慌ててルーはフェリアーテを抑えた。
「うっ・・・ぐぅっ・・・。」
痛みでフェリアーテは顔を歪める。
「まだ、まともに動ける状態じゃないんですから。お願いですから、大人しくしていて下さい。チャオ先生は・・・寿命で仕方なかったのかも知れないけれど・・・折角助かったフェリアーテさんに何かあったら、私の方こそチャオ先生に顔向けできません。」
ルーは途中から、堪え切れずに泣きながら言う。
「ルー・・・。ごめんよ・・・。」
(昨日の今日だもんね・・・。あたいなんかよりずっと長い時間過ごしてきたんだもんね・・・。辛さはあたいなんかの比じゃないよね・・・。)
フェリアーテは申し訳なくなって、ルーへ謝った。
「すいません、取り乱してしまって。とりあえず、明後日の件は出来るだけ行ける様に私からもお願いしますので。それまでは、ゆっくりしていて下さい。」
ルーはすぐに涙を拭いて、いつものように戻って言った。
「分かったよ。ごめんね、無理言っちまって。」
「いえ、お気持ちは分かるつもりですから。それでは、失礼します。」
そう言って、ルーは病室から出て行った。
表には面会謝絶の表示が出ていたが、メビウスが前の席に座っていた。
「ルー、フェリーの様子はどうだった?」
「ええ、とりあえず意識はハッキリしていますけれど、暫くは絶対安静ですね。」
メビウスに聞かれて、ルーは答えた。
「そっか、んじゃ、待ってるだけ無駄だな。俺は明後日までゆっくり休んどくわ。んじゃ、また明後日な。」
「はい、お大事に。」
あちこち傷だらけだが、元気に去っていくメビウスの背中にルーは静かに言った。

次の日の夜
チャオの葬儀を明日に控えて、なかなか答えがこない状態にフェリアーテは焦れていた。
「何やってんだい・・・。答えはまだなのかい・・・。」
(く、体が言う事聞かないし。明日駄目だって言われたら・・・それでも・・・あたいは・・・。)
動けない自分の身体を歯がゆく思いながらも、フェリアーテの決心は揺らがなかった。
「すいませんお待たせしました。」
消灯ギリギリ前にルーが飛び込んでくる。
「明日許可が下りました。私ともう一人の看護婦。それに医師が一人付きます。明日の朝、私が迎えに来ますので、今夜はゆっくり休んで明日に備えて下さい。」
「そうかい、良かった。ありがとね。これで、今夜はゆっくり眠れるよ。」
ルーの言葉を聞いてフェリアーテはホッとした顔をしながら言った。
「いえ、それでは、私は準備等がありますのでこれで。」
「あいよ。おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
ルーは出て行くときに明かりを消していった。

「ん・・・?」
フェリアーテは違和感を覚えて目を覚ました。視界に入る時計を見ると三時を回った所だった。
(何だ、この違和感?)
怪訝そうに思いながら何とか首を動かして周りを見ようとするが動かない。
「いつつつ・・・。」
「フェリアーテ、その場で聞きなさい。」
痛がっていたフェリアーテの耳に聞きなれない声が聞こえて、思わずその場で硬直する。
「一体何者だい・・・。」
フェリアーテは目だけでキョロキョロと見る。
「見えていた方が安心できるか?」
相手の声がそう聞こえると、枕元に一人の女性が現れた。
紫色の髪の毛に褐色の肌、そして、暗い中でも不気味なくらい綺麗に光る赤い瞳。
フェリアーテは何とか動こうとするが、やはり体が動かない。
「案ずるな。私はお前を殺したりしようとする為に現れた訳ではない。」
「なら、一体どういう用件で・・・。」
さっきも感じず威圧感や圧迫感が無く、相手の言葉に嘘はなさそうだったが、どう言う事なのか分からずに訝しげに聞いていた。
「まずは自己紹介をしておこう。私はカストミラ。見ての通り人間ではない。今回私がここに来たのは、フェリアーテ。お前に真意を聞きたくて来たのだ。」
「真意?」
「そう。ここでの大きな戦いは終わった。だが、忘れては居ないか。お前の居た世界の事を・・・。」
「!?」
(な、何でそれを!?)
フェリアーテはカストミラの言葉に目を見開いて驚く。
「そうか、その態度を見るに、忘れている訳ではないのだな。」
「一時だって忘れた事なんて無い・・・。」
「そうか。ならば、どうだ戻ってその未練断ち切ってみようとは思わぬか?」
「何だって?そんな事が出来るのかい!?」
フェリアーテはにこやかに言うカストミラの言葉に、信じられないという顔をしながら聞き返す。
「お前が望むのなら、な。」
「引っ掛かる言い方だね・・・。」
カストミラの言葉に、ジト目になって言うフェリアーテ。
「リスクがあると言いたいだけだ。向こうへ行くとして、今の身体のままで何かを出来るか?身体を治して言った所で全てが終わった後でも良いのか?そして・・・こちらに帰ってこれなくなっても良いのか?」
「・・・あたいを試しているのかい。」
「別に試してなんて居ない。そういうリスクを抱えても尚、行く気があるのかと言う事だ。少なくとも今なら、ス=ラジャを目標にして行けば間に合う可能性は高い。」
「何であんたがラジャ様を知ってるんだ・・・。」
フェリアーテはカストミラを睨みながら言う。
「だから言っているだろう、私にはそれなりの力がある。だから分かる。乗るか反るかはそちら次第だ。今すぐでなくとも構わん。」
「カストミラと言ったな。明日の葬儀が終わった後じゃ駄目か?」
「別に構わない。必要な時に我が名を呼ぶが良い。良き眠りを、フェリアーテ。」
カストミラのその言葉が終わると、フェリアーテは一気に眠気に襲われてそのまま眠ってしまった。

(昨日のは夢だったのかねえ?)
フェリアーテは浮遊担架で葬儀会場に運ばれている間も、内心で首を捻っていた。
葬儀は終わり、最後の見送りも済ませ、フェリアーテは病室へ帰って来た。
「ルー。本当にありがとうね。」
「いえ、早く元気になりましょうね。」
「ああ。」
ルーが出て行くと、部屋が静かになった。
(チャオ・・・本当に安らかな顔してた・・・。ルー泣いてたな・・・。あたいも・・・泣いちまった・・・。流石にこの状態だったからハオには会えなかったか。)
フェリアーテは暫くの間天井を見ながら葬儀を振り返っていた。

「さて・・・と。」
(夢だったかどうかはこれで分かる・・・。)
「カストミラ・・・。」
フェリアーテは意を決して名を口にした。
そうすると、フッとベッドの横に現れる。昨日は暗い中で目だけ目立ったが、明るい中では全体が目立っていた。
「どうだ、答えは出たか?」
「初めから、答えは決まってる。」
「そうか。それで、どうする?」
「あたいを向こうへ。ラジャ様の元へ送ってくれ。」
「最後にもう一度だけ確認を取るぞ。戻って来れなくても構わないんだな?」
「・・・。」
(ハオ・・・。)
カストミラに聞かれて目を閉じてハオを思い浮かべて少し黙るフェリアーテ。
「構わないっ!」
しかし、目をパッチリと開けて、はっきりと言い切った。
「分かった。おまけをつけて送ってやろう。」
「おまけ?」
不思議そうにフェリアーテが言うと、何か体中に力を感じる。
「それで、立てるはずだ。」
「本当かい?」
そう言いながらも、さっきまでが嘘のように普通に身体を起こす事が出来る。
「あんた・・・何で・・・。」
驚きながらも、フェリアーテは立ち上がる。
「さあな・・・。では行くぞ。目を閉じて、記憶にある会いたい人物を思い浮かべるのだ。」
「分かった。」
フェリアーテは言われるままに目を閉じて、ラジャの姿を思い描く。
(ラジャ様・・・。)
自然とフェリアーテは胸の前で手を合わせていた。